【長岡市指定文化財】順動丸シャフト保存処理
トレハロースによる大型鉄製遺物の保存処理

名称:順動丸遺跡出土 順動丸シャフト
時期:慶応4年(1868)
員数:2本1対
大きさ:1本あたり
全長4.3m、軸径0.3m、外輪経1.5m
重さ:4.4トンと3.9トン
材質:鉄
江戸幕府の輸送船順動丸
順動丸※1は、文久2年(1862)10月に江戸幕府がイギリスから15万ドルで購入した蒸気外輪船です。幕府の輸送船として、勝海舟や坂本龍馬、徳川家茂、長岡藩第12代藩主・牧野忠訓や河井継之助など、幕府の要人• 関係者の航行に使用されました。文久3年(1863)4月、順動丸に乗船し大坂湾を巡視した将軍家茂に、勝海舟が海軍操練所の設立を訴えるエピソードはよく知られています。
戊辰戦争下には会津藩が幕府から順動丸を借り上げ、各地の戦場に兵や武器を輸送していましたが、慶応4年(1868) 5月、寺泊沖で停泊中に新政府軍の軍艦の砲撃を受け、長岡市寺泊上片町沖合(現在の佐渡汽船寺泊港付近)で座礁、自爆しました。現在、そのシャフト(外輪の回転軸)が地元に現存しています。
船 名:順動丸(英国名ジンギー号/仁記号)
船 種:輸送船蒸気外輪
大きさ:長さ約77m 幅約8.6m 吃水約5.1m
排水量: 405トン
馬 力:360馬力
材 質:鉄造
造船年:文久元年(1861)
写真・図・文:長岡市教育委員会 パンフレット 令和7年3月31日発行
シャフト保存処理

概要
遺跡発掘調査等で出土する金属製品の保存処理には腐食防止のために合成樹脂や有機溶剤を用いて処理しますが、今回の順動丸シャフトの保存処理には人や自然にやさしく安全なトレハロースが使用されています。 トレハロースはシイタケなどのキノコ類に多く含まれる天然の糖類の一種で、私達が食べている食品にも含まれています。
長さ4.3m、外輪経1.5mの大型金属製品を最新の手法でトレハロース(糖類)を使って脱塩・防錆処理し劣化を防止するのは、世界で初の試みと聞いています。
また、今回の保存処理の目的はシャフトの保存処理だけでなく、地元の人々による保存処理、処理後の管理と観察、メンテナンスが行えるよう「技術の移転・継承」に重きが置かれ実施されました。
実施内容
設計、実施 ・・・ 長岡市の発注により順動丸シャフトの保存処理を行うにあたり、東北芸術工科大学文化財保存修復研究センター(山形市)の伊藤幸司教授の設計案の提示、作業技術指導の下、長岡市教育委員会科学博物館の作業指揮により実施し、処理装置の設計製作、脱塩・含浸処理、最終的な表面処理の実務を当社が担当しました。
含浸装置設計図

実施行程
①実測
現状の形状寸法を計測し、図にします。

②さび落とし
汚れやさび、腐食して剥離するものを取り除きます。

③剥離止め
保存処理後に剥がれ落ちないようエポキシ系樹脂で固めます。

④含浸層へシャフト設置
天井高さが3mと低く、作業幅も小型クレーンを入れるのが精いっぱいの作業条件の中、簡易門型クレーを補助使用することで型枠の中に入れる事ができました。


⑤脱塩処理
- 50℃のお湯をシャワーヘッドより散水しシャフトに直接掛けることで脱塩を推進させます。
- 48日間継続し、塩化物イオン、硫酸イオン濃度を測定し脱塩処理を完了させる。

⑥含浸処理
鉄の腐食を防ぐためにトレハロースを水温50℃を保ち所定の濃度で維持し、シャワーヘッドから循環散布させ48日間含浸させました。
水温が下がると、トレハロースが固化し濃度の低下とシャワーヘッドの目詰まりになり全体に含浸できなくなるため、定期的なシャワーヘッドの交換清掃や、循環管理に細心の注意を払いました。
令和6年1月1日に能登沖地震が発生し、作業場所も30分の停電となり、継続が危ぶまれましたが幸いにも早期停電解消されたため、温度低下による固化は生じず継続することができました。
最終の9日間は濃度を上げるため、水温も70℃迄上げました。
型枠として使用していたVP管を含め、処理装置が耐えられるか心配しました が、少し変形した程度で、何とか最後まで持ちこたえ、無事終了することができました。



⑦表面処理
水温が下がり、残水を処理したのちシャフトを取り出して作業しやすい位置に設置しました。
余分に付着したトレハロースをスチームクリーナーで溶解させふき取り、電熱ドライヤーで細かな表面処理を行い、均一な膜となるよう表面を整えました。
