【教博工 第1号】重要文化財旧長谷川家住宅災害復旧工事
工事概要
本工事は、令和6年能登半島地震にて被災した重要文化財旧長谷川家住宅の災害復旧を目的に行われた。茅葺屋根の葺き替え工事が完了して間もなく、敷地内の各蔵漆喰壁や主屋、新座敷の広範囲に渡り内外の土壁が被害に見舞われたため、この土壁の修繕、塗り直し復旧が主な工事内容である。
重要文化財の伝統的な工法を熟知した高度な左官技術を有する株式会社大熊工業の協力のもと施工を行った。被害の程度、損傷具合を慎重に調査(目視や資料サンプルの採取にて浮き、剥離状況、ひび割れの程度など)し、記録として残すとともに、健全部分は極力残しつつ丁寧に解体、除去が進んだ。
重要文化財工事においては、現代の新築工事や改修工事と異なり、すべて綺麗に新しいものを造るものではない。従来の日本の伝統的な施工方法をいかに忠実に再現し後世に受け継いでいくか、残せるものは、できる限り当時のまま保存していくかが非常に重要になってくる。
土の扱いは、とても難しく繊細で奥が深い。木材も同じことが言えるかもしれないが、何一つ同品質のものはない。採れる産地や種類によって強度や、性質、耐久性などが異なる。品質管理において、仕様書に準じること、合致させることができない部分が多々あり、状況に応じて監理者との協議の上方針を決定していかなければならない。
今回は、工期の都合上冬期間の施工を余儀なくされたことが特に苦労した。重要文化財の左官工事においては、氷点下に近い気温になる12月~翌3月は通常作業は行わないことが一般的だ。温度管理や、養生方法により土壁の品質に大きなバラつきが起こるリスクが高くなるためである。このような状況の中、工程管理、採暖養生、温湿度管理等を適切に行わなければならなかった。
文化財の左官修復工事にはじめて携わってみて、自然の材料の特性を最大限に引き出し、建物を造る古人の知恵や工夫は現代では想像もできないほど素晴らしいものだと実感した。このような歴史的建造物の修繕、復旧工事に今後も機会があれば是非参加させていただきたい。
令和8年3月31日 竣工 ㈱大石組 建築部 関本
建物概要と文化財建造物の修理
1)工事対象建物
旧長谷川家住宅主屋、新座敷、井籠蔵、帳蔵、新蔵、附裏門、宅地内建物他
2)構造・規模
主屋:
正面20.3m、側面23.1m、折曲り寄棟造、茅葺、西面玄関、西北東各面庇東面突出部及び北面便所附属、南面突出部桁行10.0m、梁間10.0m、寄棟造、茅葺、東面下屋附属
新座敷:
桁行8.2m、梁間3.7m、南面突出部桁行2.3m、梁間7.4m、各二階建、切妻造、桟瓦葺、西北東三面庇及び北面便所附属、鉄板葺
井籠蔵:
土蔵造、桁行4.9m、梁間4.0m、二階建、切妻造、鉄板葺、新座敷間戸前附属
帳蔵:
土蔵造、桁行6.3m、梁間4.5m、二階建、切妻造、鉄板葺、南面庇附属
新蔵:
土蔵造、桁行11.1m、梁間5.6m、二階建、切妻造、鉄板葺、四周サヤ附属
附裏門:
桁行9.7m、梁間2.4m、切妻造、鉄板葺
3)指定区分
国指定重要文化財(建造物)
4)文化財建造物修理
本工事は貴重な文化財を後世に残すための修理であり、その修理は極力古材を残すのみならず、形式・技法も後世に伝えることを目的とする。したがって、無断で技法の変更、工事範囲外の解体や施工にならないよう、作業従事者に修理の意義、目的を周知徹底させること。
施工中は、建物の毀損や部材の盗難・紛失・焼却などのないよう十分徹底させるのは無論のこと、施工に当たっては必ず記録を残し、指示された以外の作業を行わせないよう徹底させること。
5)材料保管
使用する材料で、設計監理業務受託者の検査に合格したものは、すべて良好な状態で保管し、湿気・盗難火災に対し、十分対策を講じる。
特記事項
- 壁掻落としに先立ち、出入口廻り、窓廻り、柱のチリ寸法等、全体や細部を写真や実測等により記録する。
- 壁土等の除去は、破損の度合いを見ながら慎重に行い、健全部分の不要な除去は行わないように注意する。
- 新土は早期に購入し、旧土と混ぜ合わせて十分寝かせる。この期間は単に水を張って放置しておくだけでなく、定期的に練返し、わらスサを加えて練合わす。
- 左官材料の保管は常に乾燥状態とし、塗上げ後の乾燥は自然な状態で行い、乾燥が進みすぎる場合にはシート等で覆い、むしろ掛けによる早期乾燥予防の措置を講じる。また、寒冷時の施工は避け、やむを得ない場合は適当な温風扇などを準備し保温措置を施し、壁の凍結を防止する。
- 壁塗り着手前に、隣接部材の汚損を防ぐため紙張りや、シート養生を施す。
- 左官工事に従事する主な技能者は、選定保存技術保存団体に所属するもの又は過去に従事した作業経緯や出来栄えなどから、伝統的な左官技術を有すると主任技術者(※1)が認めたものを充てる。
※1 文化財保存事業費関係補助金交付要綱に定める者、的確な設計監理を行うために、発注者が設計監理業務を委託した組織から派遣される者を指す。



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